来 歴


捧げもの


観衆の一人である
私はあなたをほめることができる
観衆はあなたを誹謗することができる
観衆はあなたのために花輪を作ることができる
その同じ花輪を捨てることができる


かつてあなたは落日の王国の主人公であつた
私たちはあなたにその役を強いた
あなたの物語は酷薄であつた
あなたはおうむの言い方で話した
あなたはギニヨールの歩き方で動いた
観客が一人去り二人去つて行く
みじめな世界の舞台であなたは演じ続けた
やがてあなたの物語に幕がおりた
芝居の終わつたあとの舞台から私たちにむかつて
やけにふり続けるあなたの帽子をみていたとき
いつたいどちらが役者であるかと疑いたくなつたのだ


ある日素顔のあなたに出会つた
その眼鏡をかけた黄色い顔のあなたの
猫背の肩にあるもの
勇者の孤独と呼ぶには
あまりに敗者の寂寥に似すぎているものを
乏しいあなたの魅力につけ加えよう
私たちはその侘しい猫背のために花輪を編もう


次の舞台で
あなたは何の役をひきあてるだろう
若い王子に扮してもあなたの肩のおとろえは消えはしない
あなたはもう休むがいい
まちがいだらけのあなたの舞台を
二度も見なければならないのは辛いことだ
私たちの隣の席にきて休むがいい
私たちは私たちと同じあやまちを犯した
あなたのために
できるだけ貧しい花輪を用意しよう


しかしそれをあなたが首にかけるのはいつか
果たしてその日がくるのか
もつとも愚直に生き徒労に生き
数えたてればきりのないあなたの罪を証すためには
しぼんだ薔薇の花束が似つかわしいようだが

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